認知学習の指導を通して分かったことは、子供達は高い認知能力をもっていることです。順調に育たないと、これもわからない、あれもできないと思いがちですが、真剣に向き合って指導をすると、子供には認知能力が秘められていることを実感します。
認知学習は秘められている認知能力を引き出して、更に向上するように援助するとりくみであると考えます。課題がクリアーできた時の子供の嬉しそうな表情は、そのことを語っています。
さて、認知学習の課題は、目と手の協応動作の課題、微細運動の課題、視覚記銘の課題、書く課題、照合の課題、仲間集めの課題、パズル構成の課題等、多岐にわたります。
さまざまな課題の中で重視している課題は、ひとつの概念と同じの概念を教えることです。
ひとつと同じの概念
どうして、ひとつの概念と同じの概念を教えることを重視しているかというと、ひとつの概念と同じの概念は認知能力の基盤だからです。長年の指導体験から「ひとつと同じ」がわかるようにならなければ、認知能力の向上は図れないことを教えられました。ひとつと同じの概念は、1才代に習得されます。
即ち、子供は1才代に認知能力の基盤を築くのです。順調に育つ子供は、築いた基盤をもとにして認知能力を発達させていくのです。
ひとつを教える
順調に育つ子供は「お菓子をひとつあげるね」「玩具をひとつ貸してあげなさい」のような何げない日常会話のなかで「ひとつ」という言葉を聞いたり、生活の中で「ひとつ」を体験することによって、ひとつの何たるかを学びます。
ところが、発達が順調にいかない子供は、日常生活の中で「ひとつ」を学ぶことが難しいです。そこで、「ひとつ」を学習課題としてとりあげて教えることが必要となります。 指導の特徴は、くり返し教えることです。指導は半年、一年とつづきます。
根気よく指導した末に、子供は「ひとつ」の数の概念を習得します。
ひとつを教えながらふたつ、みっつと他の数も教えていきますが、重要なことは、ふたつはひとつとひとつが集まった数であること、みっつはひとつ+ひとつ+ひとつの数であることを教えることです。こうした指導をすると数の概念が育まれます。
不思議なことに数の概念がわかる頃には、全体的に認知能力が向上しています。
それは数の学習を通して、考える力が育まれるからです。
同じを教える
なぜ、同じを教える必要があるかというと、認知能力の基盤だからです。学習課題にも同じを要求する課題がたくさんあります。たとえば、手本と同じ位置にシールを貼る課題にしても、手本と同じ色で色をぬる課題にしても仲間集めの課題にしても、同じがわからないととりくむことができません。
順調に育つ子供は模倣によって同じを学んだり、パズルボックスや型はめの遊びを通して、同じを学ぶことで自然と同じの概念を習得します。ところが発達が順調にいかない子供はこうした学びが難しいです。
そこで、同じを学習課題としてとりあげることが必要となります。
指導は絵カードや具体物のマッチングから始まります。くり返し指導することによって、同じとはどういうことであるかを教えます。
同じがわかるようになると、子供はそれまで見向きもしなかったパズルボックスやはめこみパズル等に興味をもつようになります。
子供の遊びには手本と同じようにビーズをとおすこと、手本と同じように図形や果物を書くこと、手本と同じように色をぬることなどがありますが、こうした遊びも学習課題としてとりいれています。
最終的には手本と同じように文字や数字が書けるように指導します。
さて、同じがわかるようになると、ものの比較ができるようになります。
つまり、長い,短い、太い,細い、大きい、小さい、高い、低いなどがわかるようになります。