生まれたばかりの頃は、手は常に握られていて反射的な動きしか出ません。
それが1年後には、スプーンを握ったり、細かな物をつまんだり、バイバイができるようになります。実に目覚ましい発達です。
この手の目覚ましい発達をバックアップするのがみつめる目です。
月齢を追ってみつめる目がどのように手の発達をバックアップしているかを述べます。
0~1ヵ月 モミジの葉っぱのような手
生まれたばかりの時期は、手は常に握られています。
しょっちゅう手足を動かしますが、これは外からの刺激によって無意識に起る動きです。
モロー反射では、両手を広げたり、把握反射では手のひらをさわると指を握りますが自発的な動きではありません。
手をパーとひろげた手は、もみじの葉っぱにたとえられとてもかわいらしいですね。
2~3ヵ月頃 ハンドリガード
この時期になるとハンドリガードが出ます。ハンドリガードは手を顔の前にもっていって手をみつめる行動のことです。発端はたまたま顔の前に来た手を見つけることですが、日を追って赤ちゃんは手を顔の前にもっていって、手をじーっとみつめるようになります。ハンドリガードは手の発達において意味のある行動です。
それはハンドリガードで赤ちゃんは自分の手と初めて出会うからです。
この時期はみつめているものが自分の手であることも、まだ手の何たるかも分りません。しかし、月齢が進むにつれて、それが手であり、自分の意思によって動かせることが認識できるようになります。
ハンドリガードは手の動きが反射的な動きから、自発的な動きへと移行したことを証しする行動です。
それまでの手足をバタバタ動かしたり、手の平に刺激が加わるとギュッと握ったりという動きは反射的な動きです。
それに対して手を顔の前にもっていったり、もみ手をするように手を動かすという動きは、自発的な動きです。
手はハンドリガードを期に著しい発達を図っていきます。こうしたことからハンドリガードは手の発達の幕開きととらえることができます。
ところで手は頭の出先器官と言われます。手は頭で考えたり、思っていることを表現する器官であるということです。即ち、手は頭の道具であるということです。
こう考えると、ハンドリガードは手が頭の道具として機能し始めることを証しするものです。また、ハンドリガードでは、みつめる対象が人の顔から手へと移ります。
新生児期より人の顔をみつめてきた目が、手をみつめるようになるのです。
このことから、2ヵ月頃になるとみつめる対象の変化が起っていることがわかります。
ではどうして手をみつめつづけることができるのでしょうか?それは一朝一夕にできるようになるのではありません。
新生児期からのアイコンタクトをとおして、みつめつづける力が育くまれたからです。こうしたことから、みつめる目がハンドリガードをバックアップしていることがわかります。
4ヵ月 目の前の物に手をのばしてつかむ
この時期になると自発的な動きが確認できるようになります。それは目の前にガラガラをさし出すと、ガラガラを見つめながら手を伸ばしてガラガラをつかむようになることです。この行動はつかみたいという意思が手を伸ばすという行為を引き起すことによって出るものです。
この行動に手の動きが反射的な動きから自発的な動きに移行したことをみます。
さて、手は頭の出先器官といわれています。確かに文字を書こうと思うと手が文字を書いたり、紙を切ろう思うと手がハサミを動かしたりします。このように思うように手が動くのは、頭が手を動かしているからです。
こう考えるとガラガラに手を伸ばしてつかむという行動は、赤ちゃんの手が頭の出先器官に発達したことを証する行動であることがわかります。
では、赤ちゃんがガラガラに手を伸ばしてつかむという行動は、何によって出るのでしょうか?赤ちゃんは手を伸ばす前にガラガラをじーっとみつめます。
実は、このじーっとみつめる目が手を伸ばすという行動を発動するのです。
つまり、みつめる目が手の動きをバックアップしているわけです。
私共もこうしたことを日々の生活において実践しています。たとえばリンゴ売り場でリンゴを買う場合、リンゴを見つめながらしばらく品定めをして、選んだリンゴに手をのばしてリンゴをつかみます。
そう言われれば、あゝそうなんだと思い当たりますね。
ところで、うちの子の頭は大丈夫?と思うことがあります。
頭の発達は目にみえるものではありませんので、目に見えるものによって判断するしかありません。この目の前の物(ガラガラなど)をみつめて手を伸ばすという行動は、目に見える発達ですので参考になります。
つまりり4ヵ月頃に目の前の物をみつめながら、手を伸ばす行動が出れば大丈夫です。
6ヵ月 対向動作が出る
6ヵ月頃になると手掌にぎりが出ます。赤ちゃんは立方体の積み木を手の平全体と伸展した母指とで握るようになります。手掌にぎりで注目すべきことは、母指の伸展です。
これまでわしづかみ(母指を除く4本指把握)をしていましたが、母指の伸展により、わしづかみにさようならをして、母指と四指を使うことが始まります。
母指の伸展により母指は他の四指と分離独立した動きが可能となります。
そこで出るのが母指と他の指との対向動作です。
ではどのような対向動作が出るのでしょうか?
赤ちゃんはティッシュペーパーを母指と示指とでつまんでティッシュペーパーを箱からとり出すようになったり、哺乳ビンを母指と他の四指とを対向させて支え持つようになります。
7ヵ月になるとコップの取手を母指と示指でつかみます。
8ヵ月になるとピンポン玉を母指と示指とを対向させてつかみます。また、シールを母指と示指とでつまんではがします。(ピンセット握り)
このように物によって適切な把握をするようになるのは、みつめる目が物をみてどのような把握をしたらよいかを瞬時に判断するからです。
つまり、みつめる目が適切な把握の仕方をバックアップしてわけです。
私共はボタンをはめる時は、どの指を使いますか?
ハサミを使う時は、どの指を使いますか?
ボタンをはめる時は母指と示指を使い、ハサミを使う時は母指と示指と中指を使いますね。6ヵ月頃よりこうした指の使い方が始まるのです。
7ヵ月 積木を移し変える
右手に持っている積木を左手に移し変えるようになります。この移し変えから右手と左手を同時に使えるようになることがわかります。移し変えができるのもみつめながら手を動かすからです。こうしたことからみつめる目が移し変えの行動をバックアップしていることがわかります。私共も手作業をする時は、手元をみつめながら手を動かしていますね。
9ヵ月 まねっこ芸が出る
赤ちゃんが人の手の動作を真似して手を動かすようになります。「バイバイ」と言って手を振ると赤ちゃんが真似をして手をふったり、「バンザイ」と言って両手を上げると赤ちゃんが真似をして両手をあげます。その仕草の可愛らしさはたとえようがありませんね。赤ちゃんによっては「ヘイ」で頭をさげたり、「おつむてんてん」で手を頭にもっていったりの芸をします。どんな仕草でも見る人の頬がゆるみますね。
これらはまねっこ芸と称されています。ではどのようにしてまねっこ芸を習得するのでしょうか。おつむてんてんを例に述べます。
母親がおつむてんてんを始めるのは7ヵ月頃です。おつむてんてんをすると赤ちゃんが「おや何だろう?」とじーっとみつめます。
母親がおつむてんてんを止めると、赤ちゃんはもうおしまいなの?もっとやって!と言わんばかりのまなざしを母親に向けてきます。母親は赤ちゃんのまなざしから、おつむてんてんに興味を持ったのかなと思って再びおつむてんてんをします。
そうこうしているうちに、おつむてんてんを見ると赤ちゃんが身体をゆすったり、ニコニコするようになってきます。こうなると母親のおつむテンテンに拍車がかかります。
赤ちゃんは前にもまして母親の手の動作をじーっとみつめつづけるようになります。
母親は赤ちゃんの凝視のまなざしに圧倒されて、つづけざるを得なくなります。
そして9ヵ月頃になると、赤ちゃんが動作の真似をする日がきます。
その日は突然きます。
母親が「おつむてんてん」と言いながら手で頭をポンポンと叩くと、赤ちゃんが母親の動作を見て、真似をして自分の手を頭にもっていくようになります。
母親はついにやった!とびっくりするやら、嬉しいやらで「上手ね」と拍手してほめます。すると赤ちゃんはニコニコとなり拍手まで真似をします。
この一連の経緯をまとめると次のようになります。
母親のおつむてんてんの動作をじーっと見つめる→じーっとみつめることでおつむてんてんの動作を学ぶ→くり返し学ぶことでおつむてんてんの動作を記憶する→母親のおつむてんてんの動作を見た時に記憶している動作にスイッチが入る→赤ちゃんが自分の手を頭にもっていく。こうした経緯からまねっこ芸の習得をバックアップしているのは、みつめる目であることがわかります。
まねっこ芸は人の動作の摸倣です。その後の赤ちゃんを見ると動作模倣の術によって
身辺動作や遊び方などを学んでいきます。こうしたことからまねっこ芸は,次の成長につながる大切な行動であることがわかります。
動作模倣の術は終生使われます。たとえば、習いごとや特殊な技能を習う場面では動作模倣の術が活躍します。
10~11ヵ月 指さし行動
絵本をみている時、赤ちゃんが自動車の絵を指さします。母親が「それはブーブー自動車よ」と説明します。食事の時赤ちゃんが玉子焼きを指さします。母親が「玉子焼きが食べたいのね」と言って玉子焼きを赤ちゃんの口に運びます。赤ちゃんは何もしゃべらないのに母親は指さしに応えた対応をします。
10~11ヵ月頃になると赤ちゃんは自分の意思や欲求を指さしによって伝えるようになります。
母親は指さしから赤ちゃんの伝えたいことを察知して適切な対応をするようになります。
赤ちゃんはこれまではまなざしや泣きやお語りなどによって意思や欲求を伝えてきました。
それが指さしをするだけで伝えることができるようになるのです。
赤ちゃんは指さしに対して適切な対応がされる体験を通して、指さしで欲求や意思を伝えることができることを学びます。すると盛んに指さしをするようになります。
たとえば、散歩をしている時、行きたい方向を指さしたり、家族がそろっている時「ママはどの人?」と尋ねると母親を指さします。
ではどのようにして指さしを習得するのでしょうか?それはまねっこ芸の習得と同様で、人の指さし行動をくり返し見ることによって習得します
たとえば、外を散歩をしている時、母親が犬を指さしながら「ほらワンワンがきた」と言ったり、玩具を片ずける時に母親が玩具箱を指さしながら「玩具をここにナイナイしようね」と言ったりします。こうした人の指さし行動を見ることによって習得するのです。
指さし行動の習得を可能にするのが、示指の発達ですが幸いなことに、この時期になると示指を他の四指より分離独立して動かすことができるようになります。
いいタイミングで示指の伸展が起るなと感心させられます。
さて、赤ちゃんは指さし行動をとおしてますます自分の意思や欲求を伝えることができることを学びます。この学びはとても大切なものです。なぜなら人とコミュニケーションをとりたいという意欲を育むからです。この意欲が言葉を学びたい、そして人と話したいという欲求を育みます。
ところで、みつめる目は指さし行動にどのように関わっているのでしょうか?
赤ちゃんは指さしをする前に指さしをする対象を見ます。そして対象をみつめながら指さしをします。赤ちゃんが指さした先をみつめると、赤ちゃんの伝えたいことが察知できます。こうしたことから、みつめる目が指さし行動をバックアップしていることがわかります。
さて、指さし行動は終生使われます。たとえば、人に道をたずねられた時、指さしをしながら「この道を進んで信号機のところを右折します」と説明をしたり、「リモコンはどこ?」とたずねられた時、リモコンを指さしながら「あそこにあるよ」と言ったりします。0才に習得した指さし行動は、何才になっても便利な伝達手段として使われるのです。
1才 手遊び歌
「おかあさんといっしょ」というテレビ番組があります。この番組を見ないで大きくなる子供はいないでしょう。昔も今も子供をひきつける番組であることは確かです。
さて、この番組で必ず登場するのは、手遊び歌です。歌のお兄さんと歌のお姉さんが楽しそうに歌いながら手遊び歌を披露します。
その時、子供はというとお兄さんとお姉さんの言動を凝視しています。
名前を呼んでもふり向かない位集中して見つめています。
これほど凝視するのはお兄さんやお姉さんの手の動きに興味があることと、歌を聞くことが楽しいからです。赤ちゃんは早い時期から歌に反応します。
6ヵ月頃になると母親が「♪ぞうさん」や「♪むすんでひらいて」などの動揺を歌うと、赤ちゃんが母親の口元をニコニコしながらみつめます。
8ヵ月頃になると、母親が童謡を歌うと,赤ちゃんが歌を歌うかのように「アーアー」
と声を出します。
10ヵ月頃になるとご機嫌が悪い時に、母親が歌を歌うとご機嫌がなおり、歌に耳を傾けます。
こうしたことから赤ちゃんにとって歌は心地よい刺激を与えることがわかります。
私共も歌を聞くと快い気持になることは、体験するところですね
次に手の動きですが赤ちゃんはおにいさんやお姉さんの手の動作をみつめながら真似をして手を動かしています。即ち、動作模倣をするのです。
まねっこ芸との違いは動作の記憶が早くできるようになることで数回見ただけで真似ができるようになることです。動作の記憶ができると、母親が手遊び歌を歌うと赤ちゃんは歌に合わせて手を動かすようになります。
赤ちゃんがテレビの画面を凝視することからわかるように手遊び歌の習得を可能にするのはみつめる目です。
じーっとくいいるようにみつめる目で歌を聞いたり、手の動きを見ています。
こうしたことからみつめる目が手遊び歌の習得をバックアップしていることがわかります。